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2017年05月23日

≪ 竪琴の調べ ≫

ロマンチックな物語です。

いつかバレエの舞台になるような・・・

いつか映画になるような・・・ そんな物語 ・・・ おすまし

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≪ 竪琴の調べ ≫


昔々 ある国に たて琴を美しく奏でる娘がいました。
音色は静かで、優しくて、聞く人すべての心を包みました。
娘が森で奏でれば、爽やかな風が吹きはじめ
そっと木の葉を揺らします。
小鳥や動物たちもそばにやって来るのです。
花もうっとり揺れ始め、開いて一緒に歌います。

夜の丘で奏でれば、まあるい月は微笑んで
星は、いっそうきらめいて、小さな光の粒たちが
娘のもとに降るようでした。
疲れて眠れない人々も、その音色を聴くと安心し
ぐっすり眠ることができました。

≪ 竪琴の調べ ≫


ある旅芸人の一行が、その町にやってきたのです。
花形は、背の高い若者で、その踊りの素晴らしさは
遠くの町から伝えられておりました。

仲間の笛や太鼓に合わせたり
歌に合わせて、踊るのですが、
どこの町でも大入りでした。
想いを寄せる娘たちにも
彼は、優しく微笑むだけで また来年・・・と
手を振って旅を続けおりました。


ある夜、彼は、湖のほとりにひとり歩いてゆきました
どこからか、美しいたて琴の音色が聞こえてきます。
湖には、月の道があり、その向こうから聞こえて来ます。

彼は、そっと目を閉じました。魚の跳ねる音がしたとき、
彼も心の中で高く撥ね、自然に手足が動きます。
知らないうちに踊りだしておりました。

伸びやかに、軽やかに、自由に、彼は、踊り続けます。
観客はひとりもいません。しかし彼は、今までとは
まったく違う踊りをしている自分に気づき
楽しんでいました。

回りながら跳ねながら、湖のほとりを踊るうちに
いつしか湖の反対側まで来てしまいました。
不意に音が止みました。たて琴をひとり奏でていた娘は
突然、若者が踊りながら現れたので驚いて
弾くのをやめてしまったのです。

こんばんわ!  ・・・ こんばんわ ・・・・

君だったんだね。あまりに美しい音色に踊りだしてしまったよ。
若者は正直に話した。 そうでしたの・・・ 

少しの沈黙の後
彼女は、またたて琴を静かに奏で始めました。
若者は、ふたたび静かに踊り始め、
彼女の周りを回ります。

もう帰らなくては・・・ 娘が言うと、

そうですね ・・・・ おやすみなさい ・・・ おやすみなさい

ちょっと待ってください!私は、旅の芸人です。
良かったら町の広場のテントにおいでください。
彼がそう伝えると、彼女は、小さくうなずいて
家路に着きました。彼は、まだ心に鳴り響いている
娘のたて琴の音に合わせて、踊りながら、
ねぐらの馬車に戻ってゆきました。


次の日は日曜日、仕事が休みの人々が、
広場に集ってくるのです。
子供連れも、お年寄りもおりました。

みんな評判の若者の踊りを楽しみにして、
行列をつくっておりました。たて琴を背負った娘も
そっと列に並びます。テントに入ると、七色の
帯が八方に広がっていて、大きな丸い舞台がありました。

みんなが席に着くと、始まりのドラの音。
笛や太鼓の人たちも綺麗な服を着ています。
みんなの演奏が始まりました。歌う人も出てきます。
おおらかに、堂々と歌います。人々は、拍手をしました。
三曲目は、静かな曲になって、後ろの幕が上がると
若者が立っていました。彼は、うつむき動きません。

踊りを促すように、手拍子が始まりました。
彼は目を開け、ゆっくり天を仰ぎ、歌に合わせて
踊ります。みんなうっとりと見とれます。

騒ぐ子供もひとりもおらず、母親の膝で夢見るように
眠ってしまう子までいました。

お年よりは、涙を流しておりました。
たくさんの思い出がよみがえり
懐かしい気持ちがあふれ出してきたのです。

彼の踊りは、それほどに、みんなの心をうちました。

≪ 竪琴の調べ ≫


皆の中でそれを見た娘も、いつしか涙を流していました。

幼い頃に父を亡くし、母と二人で暮らしながら
母の弾くたて琴を見よう見まねで、いつしか覚え
奏でられるようになった娘。働き者の母は、
ある日倒れて、あっけなく天に旅立ってしまいました。

ひとりぼっちになった娘は、母を思いながら
いつも形見のたて琴を弾いていたのでありました。
母の笑顔、母の声、母の料理に、手製のドレス・・・
どれも懐かしく琴の音色にこめておりました。
そうしていれば、寂しくありませんでした。
たて琴をうまく弾けるようになれば、自分だけでなく
回りの人たちも幸せにできるよ!との母の言葉を
深く信じていたのです。

背中に背負っていたたて琴を膝に置き、
いつしか奏で始めていました。周りの人は、驚いたけれど、
その音色もすばらしかったから、耳は娘のたて琴に、
目は若者の踊りを見つめているとみんな夢心地に
誘われるのでした。

彼も、観客の中から聞こえる音色に、昨夜の娘を思い出し
来てくれたんだ。と嬉しくなって、さらに美しく踊るのでした。
笛や太鼓や歌の者たちも、そのたて琴に心を重ねました。

演目が終了すると大きな拍手が沸き起こり、
みんなが立ち上がり拍手をしました。
舞台の彼は、丁重に頭を下げました。
次に右手を 娘のほうにゆっくり伸ばして見つめます。
観客たちも、娘のほうに大きな拍手を送るのでした。

娘は、頬を赤らめながら、立ち上がり、
スカートのすそをもって丁寧に挨拶をするのでした。

舞台が終ると、芸人たちは、口々に話しておりました。
彼女を旅に誘おうよ!そうだね!それがいい!
若者も、もうそれを望んでいたから、帰ってゆく人々の中に
さっきの娘の姿を探しましたが、もう
見つけられませんでした。



その夜若者は、また湖に出かけます。
今夜は、曇っていて暗く、虫の音しか聞こえません。
彼は、その中で、娘に会いたい気持ちをこめて
踊り始めました。するとだんだん、雲が晴れ
月がゆっくり顔を出し、あたりが明るくなりました。
湖に月の道がかかる頃、またあのたて琴が
聞こえてくるのでした。

若者は、嬉しくなって、その音のするほうへ
ゆっくり走ってゆきました。

こんばんわ!・・・ こんばんわ!・・・・

娘も、会えるような気がしていたので、嬉しそうな声でした。
若者は、昼のお礼をいい、三日後には、次の町にゆく
この町を後にすることを伝えました。
娘は少し寂しく思い、うつむいてしまいました。

もしよかったら、一緒に旅をしませんか?
小さい馬車で、町から村へ、つらいこともあるけれど
あなたの音色で踊りたい。と若者らしく伝えました。

娘は、突然のことに驚いて、・・・ 少しお時間を下さい・・・
と言い残し、家に帰ってゆきました。
後姿を見送って、彼も仲間の元に戻りました。


次の日も次の夜も、その次の日も、娘は姿を現しません。
急な話で、嫌われたかな?・・・ もう会えないのだろうか?
彼は、人々の前で、最後の踊りを披露すると
旅立つ支度を始めました。

無茶だったかもしれないな ・・・ でも ・・・
云わずには、いられなかった ・・・ 
仕方がないと、自分に言い聞かせておりました。

テントもたたんで馬車に積み、しばらくの食料と、
水を積み、さあ出発というときに 
小さな足音が聞こえてきました。
・・・ 娘が走ってきたのです。
たて琴を背負い、マントを着込み、
古い鞄をひとつ持って、彼らのもとに来たのです。

みんなにそっと促され、若者は、娘の前にひざまずき
来てくれたんですね!と手に口づけようとします。
娘は、恥ずかしくなって手を引っ込めると
やっと聞こえる小さな声で・・・
一緒に連れて行ってください!・・・と伝えながら
片方の手でスカートを広げ静かに頭を下げました。

若者は、古い鞄を受け取り、馬車に乗せました。
そして、娘を抱き上げて、馬車にそっと乗せました。

さあ!出発だ。馬に鞭がはいります。
ゴトゴトゴトゴト音を立て、新しい旅が始りました。



どこの町に行っても、娘のたて琴と、若者の踊りは
評判を呼びました。いつしか二人は、愛し合い
また出会った町に来たときに、あの湖に二人来て
結婚式を挙げました。

若者は、白い花を一輪、娘の長い髪にさしました。


≪ 竪琴の調べ ≫


娘は、とても幸せで、お礼に琴を奏でます。
若者は、それに合わせて、
喜びと誓いの舞を捧げます。

祝福の人たちも集まりました。
美味しいお酒もふるまわれ、宴は夜まで続きました。
月も星もお祝いの光の粒を降らせます。


旅をつづけているうちに、愛し合うふたりの間には
可愛い子供が生まれました。元気な男の子でありました。
旅の空でも元気に育ち、とても良い子になりました。

母のたて琴が流れてくると、自然と手足が動き出す。
とても元気で可愛くて、みんなは、父親譲りだね!と
頭をなでてほめました。

妹も生まれました。 元気すぎるほど泣いていても
母の奏でる静かな音色が聴こえると
そのうち、ぐっすり眠るのでした。

ふたりとも、踊りもできて、音楽も奏でられる子になりました。


旅の一座は、どこに行っても評判で
それが来ると聞けば、どの家でも、
きっと行こう!と話が弾みました。

目の見えないおばあさんも、

耳の聞こえないお爺さんも連れて行こう!

みんなで一緒に見に行こう!!

町中が心待ちにするのでした。


 
                               おわり








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Posted by 森のブリコ at 10:03 │大人の童話絵 本

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